natori1

最高純度のピンクだった. 光り輝くステージの真ん中で歌いながら踊る彼女, 名取さなを私は川崎チネチッタのスクリーン12で見ていた. 感極まって口をパクパクさせていた私はちょっと間抜けに見えるが, 時勢の影響でスクリーンを見ている誰しもがマスクをつけていたのでこれは誰も知らない私だけの秘密だ.

名取さなの事はデビュー間もない頃から知っている. けれども, 今の私は「速度」を失いつつあって, 名取が何をしたのかその全てについて語ることはできない. それでも話させてほしい, 僕と僕らを取り巻く世界と名取さなの話を.

はじめに 


名取さなのお誕生日イベントに行ってきたので, それについて思った事をここに書き留める. 書く理由としては

  1. 大本営発表があったから
  1. エモかったと良かったと言ってそのまま終わりにしたらいつか忘れそうだから.

という感じだ. さて, 名取のライブの各パートについて書くのがいいと思うんだけど, それだけでは事実の列挙になってしまうし, 私が書く必要もない. それに, 総体としてのせんせえのライブの感想はすでに様々な方がnoteとかに書いてるので, 改めて俺が書く必要はないだろう.(彼らの文章はあの日のせんせえ達の感情を巧みに表現しているのでぜひそちらも読んでほしい.) だから「私という人間がどんな切実な思いを持ってこのライブを見に行き, 何を思ったのか」という話をする必要があるんだけど, それをするにあたって, 見苦しいが私の話をしたいと思う. そしてここで話す私の話は私個人の話だけではない, 社会の中で一つの肉体を抱えて生きている「私」の話だ.
というのも, VTuber(Virtual Youtuber)はその名前の通り, ヴァーチャルの存在であり, ヴァーチャルと現実をつなげる役割を担っている. だからこそ, ヴァーチャルの存在である名取さなの話をする上で現実という社会を含んだテクスチャの上で生きている私の話を書くのはとてもじゃないが避けられそうにない.(書く前からとんでもなくハードルが上がっている. どうするんだろうこれ.)

この社会の中で生きる私というのは伊藤計劃先生のファイトクラブの論評の中で出てきた言葉で, セカイ系の作品として挙げられているエヴァに対して私が抱えていたもやもやとした疑問点をこの言葉が吹き飛ばしていった. 伊藤計劃は偉大な作家でファイトクラブは素晴らしい作品だ. いや, 今はこういう話をすべきではない. したいんだけど, 今すべきじゃない. なにはともあれ, 名取さなの話に戻そう.

本文 


見始めた頃の話 

さて, 上で大きくハードルを上げてしまったせいでどう書き出せばいいか困っている. ビッグマウスをしては後でどうしようか迷うのは俺の悪い癖だ.
文章を書けずに手を拱いてるとどうしても時間に目が行ってしまう. 今日はもう3月20日でライブがあった3月7日から2週間も日付が過ぎている. Twitterを見ると人々が続々とnoteに長文を書いて投稿しているのが目に映ってその情熱と愛に気圧される.

かく言うお前はどうなんだと言われるとここ最近, ずっとリアルで燃えていた. 私は大学院の修士1年で春から2年になり, 絶賛就活中の身だ. 大学院生という生き物は凄まじいもので研究や日々の課題は就活中であろうと関係なく進行していく.(昼夜平日休日関係なくってところが一番やばいと思う)
1月に研究に必要なデータセットのために, 家で収録実験を行いつつ, 2月に期末試験を終わらせてから国際学会に投稿するために毎日論文の執筆を行っていたり, 職(バイト)を失ったりした. 3月に入ってからはインターンをやりつつ, 就活に向けてESを書いたり, 以前査読が通った国内学会の論文の校正をしたり, 書類を作ったりしていた.
実際に日記を見るとこの期間からとたんに日記が書けない, ないしは書く内容がないといった状況に陥ってた.
GitHubのコミット量で私生活の乱れを知る日が来るとは俺も思わなかった.

そんなわけで, 今私は2週間も周回遅れのまま, ESを書くのをサボってこの記事を執筆を行っているというわけだ.(今日の俺はめっちゃ危ないぜ)

さて, 本質に触れないまま, 文章をダラダラ書いていたら23時をまわり始めた. そういえば, 名取さなの配信を初めて見たのもこんな遅い時間だったと思う.

初めて, 名取さなの存在を知ったのはTwitterで回ってきたイラストだった. 何でも, 視聴者を「ザァコ」呼ばわりする可愛いナースのVTuberがいるらしいという話だった. 妙にそのイラストが性癖に刺さった私はそこで初めてVTuberの配信を見てみることにした. 当時, VTuberはキズナアイなどの存在で認知済みではあったが実際に自分から1時間の配信を見てみようと思ったのはそれが初めてだったと思う. Tweetを遡ってみるとこの時期が一番最古の言及になっているようだ.

最初の印象はなんかインターネットミームを連発してるけど, めちゃめちゃ喋りがうまくて可愛いナースだなという感じだった. 基本的に配信は雑談やお絵かき, ゲームなんだけど基本的にはじめから終わりまでテンポをキープしたまま喋り続けられているのがマジにすごい. 後, 様々なキャラクターを作って配信に出すなどのアイデアや企画が楽しくてずっと見ている. このバーベキューの配信は当時めちゃくちゃ驚いて見入ってたのを覚えている. たしかここからいろんなキャラクターが出てきた.

ちなみに俺は輪切りたくあんマンの大ファンだ. 輪切りたくあんマンは今から2年前の配信(2019年06月30日)の47分あたりで出てきたキャラクターだ. センシティブワードのチェックしたときにリスナーがお漬物みたいな顔だなという言葉を例に上げたため, 名取さなが突然に描いたキャラクターだ. 配信ではすぐに消しゴム機能で消されたので, 画面に出てた時間は10秒ぐらいしかない. しかし, 名前のゴロが良く, 何より他のキャラクターとは一線を画すきれいな†目†をしているのでとても印象的だ.

後, 名取さなは歌が上手く, 俺は一時期ずっと惑星ループを聞いててノイローゼ気味になった.

そんな感じで毎日楽しく配信を聞いていた私だが, 大きな転換点が現れることになる. 研究室配属だ. 学部4年時に研究室配属されてから研究を始めたが, これがとんでもなく忙しく, スケジュールに余裕を持つことが難しくなった. 誰だって半年で卒論を書こうと言われたら予定がパンクするし実際, 私もそうだった. 最初のうちは配信を見ながら作業ができていたが, 段々と忙しくなると途端にそれが難しくなってしまった. というのも, 私はどうやら2つの作業を並行してやるのが苦手らしかった. 例えば, 英語の論文を翻訳しながら内容を理解しつつ, 名取の配信を見ようとすると必ずどちらかが破綻してしまうし, スライド用の図を作りながら配信を見ようとすると, 何も図が作れない. 論文の文章に関しては特に苦手で配信を見ながら書いたら支離滅裂な内容になって, 添削が大変なことになった.(その点ブログはただ狂えば書けるから気楽だ.)
だから作業している間は音楽も聞けないし(歌詞に意識がいって集中力が散ってしまう), 延々とASMR音声を朝から晩まで聞いていた. 執筆をメインにやっていた日なんて起きている時間の8割ぐらいはずっと耳かき音声を聞いていた. 周防パトラは偉大なVTuberだ.

そんなわけで名取の配信を見始めてから2年目はずっと研究に追われて, 合間の時間になんとかアーカイブを見るといった生活をしていた. それでもアーカイブというのは貯まる一方だった. しかし, 研究をやっていると↓のような副産物が生まれたりするので, 物事は分からないものだ. ちょうど院試が終わったタイミングだったので, 恥ずかしいやら嬉しいやらで浮足立ったまま家に帰ったのを覚えている.

おかげで院試の面接で何を聞かれたのかまるで覚えてない. 確か, 待機時間が暇だったので「ウタカイ 異能短歌遊戯」を読んで時間を潰していたのを覚えている. 女と女が短歌を詠んで異能を発動し, 戦うバトル青春百合SFだ. 気になる人はぜひ読んでみてほしい. お前の胸に歌を打ち込むって百合なんだよな.

ウタカイ 異能短歌遊戯 (ハヤカワ文庫JA) 文庫 amazon.co.jp

去年の話 

話がずれてしまったのでまた戻そう. そんな感じでまた一年が経っていったがここでどうしても話さないと行けない出来事がある. 初めての名取さなのソロイベントである誕生日会の話だ. 確か, 2019年のクリスマス配信で新しいキャラクター「西郷・R・いろり」を生み出した時に発表されてリアルタイムで聞いてたのを覚えている. ついに単独イベントをやると聞いてめちゃくちゃテンションが上がってたし, チケットも販売開始してからすぐポチった. 誕生日当日が近づいてくるほどにTLの沸き具合が上がってきてて俺も当時は忙しかったけど, その日をとても待ち遠しく思っていたのをとても良く覚えている.

しかし, 現実は非情なものでご存知の通り, 時勢の影響でお誕生日会の開催は中止になってしまった.

当時私は幸運なことにチケットを当てており, 2月に卒論発表なども終えてウキウキでその日を待ってたのだが, 中止になってしまって本当に何も考えられなくなった. ちょうどその日は大学で所属していたサークルの追い出し会があって, 予定がブッキングしててどうしようーなどといった贅沢な悩みをしていたら両方共中止になったため, 部屋でうずくまってぼんやりと空を眺めていた気がする.


そんなわけでオフラインで誕生日会をできなかったので, 2020年3月7日はYouTubeの方で名取さなの誕生日会が行われた.

僕はこのライブに心底勇気をもらった. 当時, 初めての単独イベントが中止になってしまって一番落ち込んでいるはずの本人が諦めずにもう一度マイクを握ってステージに立ったのだ. 泣かずにはいられなかった.

僕もケーキを買ってお祝いしたり, 以前知人に押し付けられたピカピカ棒を振り回していた. 普段サイリウムとは無縁の人生を生きているので非常に助かった. 持つべきはライブのオタクだ.


そして, ライブの最後で来年もう一度誕生日会をやろうと宣言した名取を眺めながら必ず参加したいと思ったのをよく覚えている.

オタクの話 

さて, ここから2020年の僕の話をしよう. 冒頭で言った社会に生きる一個の肉を持った僕の話だ. つまりはオタクの自分語りなので興味のない人はさっさと読み飛ばしていってほしい.(オタクの自分語り, 需要はないし俺も書きたくないが書くしかない)

と言ってもコロナでほとんど自宅に待機していた. 時勢の影響だから家にいる時間が以前に比べて圧倒的に増えた. それは僕だけでなく, 社会全体がそうだった.

例えば, 周りの人の記事とかを読むと「コロナが流行ってから人との交流が減って, 辛かったんだけどVTuber(などを含むエンタメコンテンツ)とかが合ったおかげで救われた」といった記事が散見されたのは記憶に新しい. 多くの人々がライフスタイルの変更を余儀なくされていく中でYouTubeという動画コンテンツが人々にエンタメを提供し, 生きる原動力になったり, 現実から匿ってくれる友人のような役割を担っていた.

かくいう私も日々の孤独を感じる中でVTuberなどのコンテンツに救われた…となればきっと皆にとっての理解可能な他者になり得たかもしれないが, 現実は全くそうではなかった. コロナによってライフスタイルが変化する中で私は皆が抱えてるような孤独やさびしさといったものが全く身の内から湧いてこなかった. 言葉や概念としてその切実さを理解した上で俺の中には見つからなかった. それでもツイッターを見ると飲みに行きたいと叫んでいる人や推しの配信に救いを見つけて暴れているオクタ達がいた. 皆, 救いを見つけてていいなァ!じゃあ救いバトルしようぜ!救いバトル!(チェンソーマン)

かく言う俺はその期間何をしていたのかというと, コロナで緊急事態宣言が出されてからは今までやって来なかった事に挑戦したり(例えば, 日記をつけたり, 料理をしたり, 評論を読んだり, 映画を見たり), 論文を読んだり, コードを書いてみたりしていてVTuberの配信を見る時間はかえって減っていた. だからアーカイブは貯まる一方でタスクは積み上がる一方だった.

また書き始めた. 3月の24日で時間は深夜25時. 筆が遅い上にスケジュールもメチャクチャなので一生終わる気配がないがそれでもやっていくしかないんだよな. ここ数日インターンだったり, 研究のディスカッションだったりで頭が回ってなかった. 社会人はこの状態で創作をするのかと思うとBIG RESPECTになってしまう. そういえば, 久しぶりに名取のアーカイブを見た. 色付けをしながら絵を描いてる配信を見つつ, 私は論文に載せる図を白黒にする作業をしている. なんでも, オンラインにアップする際に白黒にして掲載するそうだ. 何も分からんね.

白黒の図に直す作業はそこまで頭を使わないので, 生活について考えてたら連想ゲームで大学院から貴腐ワインにたどり着いて最後はハウス・ジャック・ビルトにたどり着いた. ここで一つ, 貴腐ワインの話をさせてほしい. 今更多少書く量が増えたところで何も変わらんだろう. 貴腐ワインというのは白ワイン用品種のブドウから作られるとても甘口のワインのことだ. 他のワインとのおおきな違いはその製造工程にある. 白ワイン用ブドウを特定のカビに感染される(ぐぐると灰色カビ病と出てきた)ことによって糖度が甘くなって芳香を帯びるらしい. この白ワインに対する操作を貴腐と呼ぶ. (参考: wikipedia) これによって貴腐化したブドウを貴腐ブドウと呼び, これを用いて作られたワインが貴腐ワインというわけだ. ちなみに俺は飲んだことない. すまん.

さて, 一般に灰色カビ病に感染すると植物から元気が消えて枯れてしまうようだ. 農家の皆さんは毎日農作物を病気から守りながら育てているのでマジにすごい. 尊敬だ. でも, 白ブドウはそんな病にかかることで糖度の高いワインを作り出すことができるのだという. 生命の生存戦略だ.

そんな植物の病気を考えながら大学院のことを思う. 冷静に考えると大学を卒業した時点で社会で働き, 収入を得て自立している人間はたくさんいる一方で, 俺は専門性がなんだかんだ言って大学院に来て学費を溶かしながらヒーヒー研究している. この生活はとてもじゃないが人に勧められるものではない. 土日も研究したり, 論文書いたりしてるので終わらない夏休み最終日という気持ちで土日を過ごしている. 現に俺は山場を乗り越えてこの文章を書いてるが久しぶりに用事のない休日をどう過ごせばいいのか少なからず迷っている自分がいる. Twitterを見ても昔はフレッシュだったフォロワーが研究を始めてから少しずつ叫び始めてきてる. 沈黙はやがて悲鳴になるというわけだ.(ハンニバル)
そんな環境なので, 大学院に入ってから失踪してしまうという人も別に珍しくないし, 俺の身の回りでも起きてしまってる. そんな場所でウーウー言いながら研究労働インターン就活授業バイトなどをしていると果たして俺は白ブドウなのか, もしくはそれ以外の植物なのか, そして, 俺が白ブドウだったとして, 貴腐によって作り出した甘いワインが俺にとって意味のあるものなのか. そんなことを考えていたらとんでもない時間になっていたのでまた, 明日書こう.

ちなみにこの貴腐という言葉を知ったのはハウス・ジャック・ビルトという映画だった. 一人の殺人鬼の12年間の告白で内容も強烈だが, その異常な独白から理解し得ない他者というものが何なのか突きつけてくる.

ラースフォントリアーはまじにすごい監督だが, パンフレットのデザインで皆体をくねらせていたのは何だったんだろう.

当日の話 

また書き始めた. 全てのタスクを終えて, 今この文章を書いている. 日付は4月1日だ. TLがエイプリルフールで賑わっている. これまでダラダラ書いてきた文章を見てるととても読めたものじゃないがそれでもこれは俺が始めたものなので, 俺が終わらせないといけない. 自分の話をするのはメチャクチャ痛みを伴う. 昔, 文章は抜き身の刀だと誰かが言っていた. 初めてそれを聞いたとき, その意味を理解できなかった俺も今ならその意味がよく分かる. 理路整然とした論文のような文章を書いてるときは事実の列挙で終わるが, ここで書きたい文章はこの世界のどこを探してもなくて俺の中から出す必要があるが本当に難しい. THA BLUE HERBが「針は替えたんだろうな?」といった気持ちが少しわかった. ブラウザのタブは一つなんだろうな?

さて, ここからようやく当日の話について触れていこうと思う. 名取のライブが行われると聞いてすぐにチケットを買って今年も幸運なことに当選した. 僕はひたすらに3月7日が来るのを待っていた.

だけど残念なことに2月の僕は上でも書いたようにタスクで頭がパンクしていて, イベント前の配信をまるで見れてなかった. サムネ王の配信は見れてないし, メニューの話や雑談もまるで配信を追えてなかった. 世界のどこを探してもVTuberほど追うのに速度が必要なコンテンツはないと思う. 一回あたり一時間を超える配信が週に何回も投稿されるし, ツイートでもVTuber同士の絡みや告知が流れるから僕らはそれらを必死に追いかけることになる.
僕は名取さな以外はあまり見ていないが, TLを見ると複数のブラウザから配信を同時に見るなんて人も少なくない. そんなわけだから, 僕みたいに速度を失ってしまうと途端に追うのが難しくなる.

誕生日当日, 僕は期待半分と不安半分だった. というのも僕は上述の通り, 配信をまるで追えてないので, 同じ文脈を会場で共有できるか不安だった. TLを見ても皆配信を追いかけつつ, 今日という日を待ちわびたぜ!と言わんばかりだったし, 実際会場のせんせえの雰囲気もそれに近かった.

そんなわけで, 前日になんとか見た直前配信を見返しつつ, 3月7日, お昼ぐらいに川崎チネチッタへと向かった. ついてすぐに物販の方でCDを購入した. 長蛇の列ができてると思ったけど, どうやら午前中だけだったみたいですぐにCDを買うことができた. 良かったーーー.

その後は昼ゴハンを食べようかと思ったけど, 名取さなのカフェのコラボは事前予約制だということを知らなかった僕はそのままアルカサールでハンバーグを食べる事にした. この, 「ライブ当日はカフェが事前予約制になっている」事すらしなかった僕を見るといかに当日頭がパンクしていたのかよく分かる. まだ, ライブ会場まで時間があったが知り合いとオフ会をすることもなく, ハンバーグを食べながら現代中国SFアンソロジーを読んで時間を潰していた. 確か, 劉慈欣の書いた「円」を読んでいたと思う. あらすじとしてはこんな感じだ.

始皇帝の暗殺を行おうとして失敗し, 仕えることになった荊軻が円周率の無限の数列の中に宇宙の謎が隠されているという. 不老不死を願う王の命によって円周率を10万桁まで求めよと命じられた荊軻が考えた方法とは…

どの短編も面白く, 最後の中国SFに対する考察も読み物として読書体験が良かったのでみんなも読んでほしい.

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) amazon.co.jp

何も考えず書いてるからすぐ脱線を繰り返す. 話を戻そう. 名取さなの話だ. お昼を食べた僕はそれでも時間が余っていて暇だったので, 映画館のある建物の近くのポップコーン店でポップコーンを食べていた. このマッシュルームタイプのポップコーンはすごく美味しい. 俺の研究よりもこのポップコーンのほうが皆を笑顔にし, 社会貢献していると思うと俺も研究やめてポップコーン作ったほうが良くないか?と思いながら食べ進めつつ, 建物の外で続々と集結しつつあるせんせえ達を見ていた.

どうやら, 皆友達と来たり, もしくはオフ会をして交流をしているみたいだ. それはそうだ. 年に一度の誕生日会. 大本営発表では馴れ合いが禁止されているが会場の外だし, 年に一度地方も都会も関係なくせんせえ達が集結しているのだ. そんな日に交流しない手はない. 俺はTLにせんせえのフォロワーがあまりいないので, 外で楽しそうにしている交流しているせんせえをポップコーンを食べながら眺めて, 「円」で円周率を計算するために人間計算機を作っているところを読んでいた.

ここではっきり伝えおきたいのは僕はせんせえ達と全く交流できなくて悲しーぷ🐑という話ではない. そもそもせんせえの知り合いが少ないし, ボッチなのは今に始まったことではないからだ. むしろ人々がこの場で交流している事がとても面白かった.

というのも, インターネットの時代はすごいもので膨大な情報量がこの星を覆っているのにも関わらず, 僕らがアクセスするのは僕らが見たいものしかない. 最近流行りの「ユーザーのアクセス履歴からその人がクリックしそうな広告を出すターゲティング広告」が一番分かりやすい例だ. 一方で推しのマークを自分のアイコンにつけたり, 同じコンテンツを追いかけている人をフォローしたりして自分と同じものを見ている人(ファンであったり, 同士であったり)をネット上で探している人も結構見かける. みんな自分が見たいものだけ見ていると同時に同じものを見ている誰かを探しているのかなとオフ会をしている人たちを見ながらぼんやりと考えていた. でも, 俺の中にはそういう気持ちがまるで現れて来ないのだけが残念だった. 俺も皆と同じ気持ちになりてェー!

そうこうしている間にポップコーンを食べ終え, ついに入場の時間になった. チケットのチェックを済ませ, エスカレーターをくぐるとそこは確かに名取の王国があった. 飾り付けられたキレイなフラワースタンド達を僕はずっと眺めていた. その一つ一つが名取さなという人間の事を考えたデザインになっている. その情熱に, 愛に, スタンドの大小が関係あるかよ. 一つ一つきれいに飾られたスタンドの写真を取りながら上映前なのにすでに僕は感極まっていた.

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俺はマジにこのスタンドを用意したせんせえ達にリスペクトを表明したい. Vのイベントの写真とかツイッターで見ているとこういったフラワースタンドが飾られている写真が出てきて, ああいうの送れたらいいなーなどと考えたところで終わった俺とは違って彼らは忙しい毎日の中から時間を作ってデザインを考え, 決して安くはないであろう額のお金を出し, フラワースタンドを作って当日会場に並べているのだ. マジにすごいと思う. 俺もシャキッとしていきたい. 本当に.

半ばすでに感極まったまま, 会場であるスクリーン12に入った. 画面の方では名取が一人三役やっていて思わず笑顔になってしまう. そして, ほんの少しの不安, つまり自分がまだ同じ「文脈」を共有できているのか, とたくさんのワクワクを抱えて舞台の幕が上がる瞬間をじっと待っていた. 待っている間は大喜利の回答に必死に答えていた. そんなことある?

joke

後, 映画のポスターのコラがあってかなり好き.

movie

そして時は来た. 「登場人物全部俺」という実に名取らしいカウントダウンとともに名取さなの誕生日会が始まった. 「エッビーナースデイ」, 「ファッとして桃源郷」, 「ギミー!レボリューション」と次々と歌を歌いながら, これでもかと言わんばかりの明るくて可愛らしいステージとその真ん中の彼女のためだけに作られた玉座の前で楽しそうに歌う名取さなは間違いなく今日の主役だった. サビの「誕生日できたよ!」を聴いたときは去年の事を思いながら本当にアツい気持ちが込み上がってきた.

intro

会場のせんせえたちも名取の歌に合わせてきれいなペンライトを振っていた. 名取のペンライトのグッズ販売は売り切れていたので, かなりたくさんのペンライトが会場で光ると思ったがその美しさは想像以上だった. 俺はペンライトを持っていなかったので, ひたすらに手を叩いていた. しかし, 何も気落ちすることはない.(これを読んでいるペンライトを持ってなかったせんせえも含めて) ペンライトは精々有限の色しか出すことができないが, 手を叩くという空間に対するインパルス入力(ここでは理想的なものを仮定する)は周波数領域で見ると全ての周波数成分を含んでいる信号だ. つまり, 俺やお前の届けたい全ての音はその「手を叩く」という動作に内包されている. だから自信を持って手を叩いて応援してほしい. またしても話が脱線した. 理系オタクと研究の知識がハイブリットされて最悪な状態になっている. 話を名取さなに戻そう.

そして, オープニングが終わったあと, 名取のMCが始まった. 各スクリーンや配信で見ているせんせえへの声掛けから始まり, さなちゃんねるずの愉快なキャラクターたちからのプレゼント(輪切りたくあんマン!!!うおおおおおお!!)が続いた. せんせえ達の反応を拾い, プロレスをしながら話を勧めていくという配信を彷彿とさせるMCの進行は俺が研究をやって頭がパンクさせていた間に忘れていた全てを思い出させてくれた. いや, 瞬間に体験した. 余りに強烈な想起は過去のことであれ「今ここにいる」私の存在を揺り動かすものだった. 俺はせんせえだったときの全部を思い出した.

プレゼント発表が終わったあとはせんせえ達の大喜利を見ることに. ココらへんからどうやらスクリーンごとにせんせえ達の分布が違うことがわかった. 僕のいたスクリーン12は自己主張が激しく煮詰まっていたオタク達(俺も含めて)が集結しており, 異様な一体感があった.(何だったんだろう.)

そして, 次に名取が配信でデザインしたお誕生日ケーキが現れた. この配信はなんとか時間を作れたのでリアルタイムで見たのを覚えている. マジに完成してて, 改めて見ても可愛くて豪華なケーキだった. ハッピーバースデイの歌を歌い, ろうそくを消すのと同じタイミングでせんせえ達がゆっくりとペンライトを消していった. こういった演出はイベントならではだし, せんせえ達の一体感が良い.(ここに大きな流れコピペを貼る)

そして, 真っ暗になって静まり返ったステージに突然明かりがついて, ばくたん衣装に着替えた名取が現れて会場に「Make it!」が流れ始めた. えー演出が上手すぎる. 「夢はもう夢じゃない」のところを楽しそうに歌ってて俺も嬉しい.

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そして続けて「PINK,ALL,PINK!」が流れる. 一年越しにやっとこの歌を聞けたので私はすでに感無量だったが, 歌詞を変えて「君の愛を伝えてもっと!」のところでぶち上がった. 皆もそうだと思う.

歌が終わったあとはMake it!に対するアツい思いを語りながら, 神アイドル発言を恥ずかしがる名取さな. でも, 俺は全くそんなことはないと思う. これまで配信に真摯に取り組み, 一度は中止になっても再び, 皆の協力を借りながらこの舞台を作り上げたのだ. 神アイドルと言わずしてなんと言えばいいんだ?俺は全くアイドルについて詳しくないが(信仰がない), それでもこれはアイドルと呼ぶものなんだろうなと思った. 気持ちはさながら「Truman show」のラストシーンのクリストフだ. (あんなに立派な立場じゃないが) 自分の生きた世界の秘密について聞くトゥルーマンに正面から向き合うクリストフの事を思い出した. ちなみに, この「Truman show」はVのオタクなら一見の価値ありだと思う. 「人がコンテンツとして人を見る」という事を20年前にこんな巧みに表現する映画があったのかと驚かされた. 俺はジム・キャリーが好き.

トゥルーマン: Was anything real? (全部作り物なのか?)
クリストフ: You were real. That’s what made you so good to watch… (君は本物だ. だから人が見る.)

そして進行が続き, 「次は解釈一致クイズ」の時間になった. 6問中, 4問正解すると新発表を告知できるというもの. 配信で見ている人たちからもリアクションをもらいつつ, スクリーン12の皆で2問正解できた. このスクリーンの人達, なんでそんなに極まっているんだろう. シンキングタイムもずっと皆でペンライト振ってたし.

他のスクリーンのせんせえ方の協力も得て無事に新情報が公開になった. グルメ漫画や新しいオリジナルソングの発表には思わずうおぉー!となった. 楽しみだね.

amakami

楽しい時間はあっという間に過ぎるわけで, 終幕の時間はどんどん近づいてくる. 最後の曲は新曲の「アマカミサマ」 今までとはビートのアプローチが全然違ったけど, すごく名取らしい歌だなと思った. 最後の名取の挨拶が終わり閉幕したあと, せんせえたちのアンコールが巻き起こる. 一年前の歌枠をやったときはセルフアンコールをやっていたけど, 今回は俺達がアンコールをやる番だ. 拍手が同期していく様子を聞きながら俺はぼんやりと非線形な振動子の同期現象を表現するための蔵本モデルの事を思い出した. 音のように空間に対して広がるものを扱った場合, 観客間の拍手の相互作用を表すグラフは無向グラフになるので同期しやすいけど, ペンライトは前方向の観客しか相互作用が及ばないし, 有向グラフになるので同期するためには制約条件がいるから難しいだろうななどと考えていた.

そして, 幕は再び上がる. そこに現れた名取はいつものナース服だった. そして, 「アマカミサマ」への想いを語りながら, 名取は「あなた達が育て上げた名取ですよ」と言っていた. VTuberというコンテンツはリスナーの存在なくしては成り立たない. それは百も承知の上で, これはせんせえの存在だけでなく, 名取自身の努力で積み上げてきたものが今日のお誕生日会なんだと思う. 舐達麻のBUDS MONTAGEで「俺は俺だが俺とお前で俺になる」ってBADSAIKUSHも言ってるし, 俺もそう思う.

その後, 名取さなが用意した手紙が本人によって読み上げられた. それは純粋なまでに皆への感謝の愛だった. 正直, 僕はずっと涙ぐんでいて, 内容は細部まで覚えていないが, 愛にできることはまだあるとそんなふうに思った.
最後に「せんせえたちも, 名取の事好きだよね!?」と聞かれて, 今度はせんせえ達が全力で拍手し, ペンライトを振っていた. オタク君はこういうときしか素直にならない. でも本当の気持ちなんてこういうときしか表現できないと思う. 俺は基本的に一人で観察して, 一人で納得して自分の中で完結させるタイプだ. シャイボーイだし, 特に誰かに自分の考えを語る事もない.(語ってもしょうがないと思っている節がある. そういうとこだぞ.) だから, 本当の気持ちなんて文章でしか書けない.

そして, 本当のラストソングは「さなのおうた」 俺はこの曲がメチャクチャに好きで, 初めて聞いたとき, サークルで民泊を借りて合宿をしている最中で一人叫んでいたのを覚えている.(皆すまんかった)
途中, 配信で見ている皆のコメントが流れてきたり, 皆の愛が伝わってくる.

song

歌も終わって最後の挨拶してこれでばくたんは終わり. そう思っていたら画面が反転してノイズ混じりの音と映像とその中に映し出されるさっきとは全く違ってどこか目の焦点があってない患者衣姿の名取が映し出された. えーこのタイミングでそれ出すのー!?と思ったし, これどういう気持ちで帰ればいいんだ???となったけど, ピーナッツ君とぽんぽこのアナウンスで無事に現世に気持ちが帰ってこれた. 圧倒的感謝だ.

終わり 

イベントが終わり, せんせえたちは帰路についていった. 色んなせんせえがいて, マスクを少しずらして息を吐きながらボーとしている人や泣いてる人もいた. 皆一人一人に物語があった. 俺は連れもいないし, そのままJR川崎駅へと向かい, そそくさと帰った.

ここで改めて上映前の俺の不安, つまり同じ文脈を共有出来ているのかについて回答しよう. 僕のたどり着いた答えは簡単で「どちらであろうと関係ない」だ. 出来たからなんだというのだ. 出来ないからなんだというのだ. せんせえという総体としての名取さなとの文脈が実際に存在していたとして, 皆には一人ひとりの名取さなとの物語, つまりいつから配信を見始めて何で笑って泣いてどんなやりとりがあったのか, がある. だから, 皆と同じ気持ちになる必要なんてなくて, 皆が思い思いの中で泣いて笑えばよかったのだ. エルティアノ湖に魚はいてもいなくても関係ないんだよな.(機龍警察)

誕生日会からそろそろ一ヶ月が経とうとしている. 俺がダラダラ書いてる間に一月近く時間が流れた. あの誕生日会から再び俺は名取の配信を追えるように…なっていない. 3月はフルタイムでインターンに行ったり, 研究のディスカッションをしたりESを書いていた. 皮肉なもので現実と戦う力をVの配信からもらった俺は次第にVの配信なしでも現実と戦えるようになった結果, Vの配信を見る時間がすっかり減ってしまっている. そういえば, なんとか一日休みを作って名取のカフェに行けた. とても美味しかった.

現実と戦えるようになんて偉そうなこと言ったけど, 実際戦えているかと言われるとかなり怪しい. 毎日負け試合をなんとかドローに持ち込むので必死だ. 僕達は弱く, 今も時代の大きなうねりの中で逆らえずに流されている. 一人ひとりがかけがえのない存在なんて言うけど, 自分の事を唯一無二の美しい雪の結晶だと思ったことはない. しかし, そんな世界だからこそ自分はどう有りたいのかを決めることに何者にも代えがたい本当の価値があると思う. それは並大抵の気持ちで出来るものではないけど, あの日, 挫折がありながらももう一度マイクを握ってステージに立った彼女の姿を見て私もそうありたいと強く思った.
そんな思いに後押しされたので, 僕ももう少しこの現実と戦おうと思う.

しばらく(少なくともあと一年)は, 研究生活が続いて名取さなの配信を追うのは困難かもしれない. 僕は速度を失ったオタクで少しずつ最新の動向からは取り残されていくだろう. それでも, 僕は僕のやり方で応援していこうと思う. そして, 全てが片付いた暁には改めてアーカイブを追いかけよう. シャイなばかりに今まで一度だってやったことのなかったコメントやリプライを送ってみるのもいいかもしれない.

そんなわけで, 改めて誕生日おめでとうございます. いい一年になりますようにってね.

さて, ようやくここまで書けた. 今までせんせえらしいこと一つもできてないけど, これで僕もせんせえの末席座っていいかな..?

もう夜も遅くなったけど, ここから文章の推敲をやる必要がある. でもめんどくさいし, 一息入れるためにランニングに行こうと思う. 最近, ウマ娘というゲームをやっている. かつての名馬と同じ名前を冠したウマ娘達のトレーナーとなり, 彼女たちとともに「トゥインクル・シリーズ」と呼ばれるレースでの勝利を目指す育成シミュレーションゲームだ. 先程, ハルウララのエンディングまでいって泣いてた. ハルウララがみんなの思いを背負って不得意な長距離レースである有馬記念(2500m)を走りきったのにトレーナである俺が何もしないのは自分ルールに反するので, その倍の5kmを走ってきた.

そういえばランニングを始めたのは去年, 初のお誕生日会をやると聞いて俺もバテないようにしないとな!と思ってランニングを始めたのがきっかけだった. 最初は2km走っただけでヒーヒー言ってたけど, お誕生日会が中止になったあとも来る日に備えてコツコツ走っていたので, 今は5kmも走れるようになった. 継続は力だ.

いつもと違うところまで走っていったら桜がとてもきれいに咲いていた. あの日見た最高純度のピンクを思い出して僕は思わず写真を撮った. また, 来年桜が近づく季節に彼女の誕生日を祝いに行けたらいいなと心から思う.

sakura